サギか支援か!? 被災地《岩手県山田町》NPO「《血税》8億円使って雲隠れ」

「もう我々の手には負えない。こうなったら警察だ、警察!」

 1月7日、岩手県山田町の佐藤信逸しんいつ町長は、会見で色をなして怒った。東日本大震災で甚大な被害を受けた同町の復興資金約8億円を謎のNPO法人が使い切ったあげく、地元の従業員に給料も払わず同法人の代表が雲隠れしたのだ。これは、詐欺なのか支援事業のミスなのか。

 問題となっているのは、北海道旭川市に本部を置くNPO法人「大雪りばぁねっと。」(岡田栄悟代表理事)。山田町の緊急雇用創出事業を受託し「復興やまだ応援事業」を行っていたが、昨年11月までに'12年度の予算約7億9000万円が尽きたとし、町に補正予算を求めた。

「町が調べたところ、通帳に残っていたのは75万円だけ。何に使ったのか問い質しても要領を得ない答えが返ってくるばかりで、町議会は当然却下しました。するとNPOは昨年の12月25日に、12月分の給与を未払いのまま雇用していた約140人の従業員全員を突然解雇してしまったのです」(山田町役場関係者)

 同町の田村剛一議員がこう憤る。

「NPOは事業計画書を町側に提出しており、その通りに運用すれば予算が足りなくなることなんてない。しかも、使い途すらはっきりしていない。そんな杜撰なNPOが存在していいんですか!」

 本誌が入手した事業計画書によると、事業内容は「物資センターの運営」「防犯パトロール」「観光の復興」などとなっている。7億9000万円の予算のうち人件費が4億5700万円あまりで、事業は残りの約3億3300万円の範囲内で賄うとなっていた。ところが、なぜか昨年11月末で資金が枯渇し、今年3月末までの給料を払えなくなったというのである。そもそも被災地の雇用創出のための事業なのだから、まったくの本末転倒だ。50代の男性従業員がぼやく。

「日給6500円で町内の防犯パトロールやガレキ場の整理、雑草取りなどに従事していました。カネがないのでクリスマスも正月もなかったです」

「軍隊ごっこ」のNPO

 NPOは町の体育館に本部を置いていた。現地を訪れると、校庭にリースで借りた5~6台のワンボックスカーや、ベンツのトラック、1000万円近くかけてエンジンを特注したという遺体捜索用のボートなどが置かれていた。かなり、モノにカネがかかっているようなのだが、驚くのは、本部内の様子。壁にドーンと飾られた額縁には、「我々が道を拓く」との筆文字。これはどうやら「部隊長統率方針」のようだ。部隊長とは、雲隠れした岡田代表のことである。このNPOは、本部内をパーテーションで仕切り、「第一中隊」「第二中隊」などと軍隊ばりの呼称で立て札まで掲げているのだ。

「メンバーらは、隊長や中隊長、小隊長などと呼び合い、車両小隊、情報班などもあった。私たち従業員は陰で『軍隊ごっこ』と言っていました。従業員にはそろいのTシャツ、幹部隊員にはアルマーニの制服が配られました」(女性従業員)

 NPOは無料浴場「御蔵の湯」を1億3000万円で建設、運営するなど、それなりに事業は展開していた。が、岡田代表は、知人にリース会社(石川県加賀市)を作らせ1億円あまりを振り込むなど、不明朗な出費もある。岡田代表は騒動発覚後、朝日新聞(岩手版・12月28日付)のインタビューに応じ、「'12年度の予算を使い切ったのは、浴場建設費など前年度の事業費が全額払えず、繰り越したから」と説明。また、リース会社の設立についても町の許可は得ていたとし、私的流用を全面否定している。その後、岡田代表は1月7日に山田町で開かれた説明会見にも姿を見せないまま、現在に至っている。

 いったいなぜ山田町は、このようなNPO法人に緊急雇用創出事業を任せたのか。地元紙の社会部記者が解説する。

「岡田代表が山田町に現れたのは3・11の震災から約2週間後でした。遺体捜索やボランティアで活動していたのを沼崎喜一前町長(昨年7月に退任)が認め、'11年5月に町物資センター担当主幹などを委嘱し、同年9月に役場職員と同じレベルの復興支援参与に任命したのです。'11年度にも緊急雇用創出事業で約4億円の運用を任されましたが、このときには町や県のチェックをパスしている。実績を積み上げて雇用人数が増え、'12年度に約8億円の事業を任されたのです」

 それにしても、町側に逐一確認して事業を行ってきたとする岡田代表と町側の主張は大きく隔たっている。

「昨年7月に前町長が引退し、現町長や総務課長などは事態をまったく把握していなかった。NPO側は『予算が足りなくなったら補正予算で補う約束だった』と主張していますが、これだけ杜撰だとそれも鵜呑みにはできない。町側の管理責任も問われるでしょう」

 前出・地元紙記者はこう指摘する。さらに驚くべきことに、町は岡田代表がどういう来歴の持ち主なのか、いっさい把握していなかったという。

「岡田代表の履歴書は受け取っていません。町の職務遂行に対する同意書も受理していません。当時の担当者が身分証明書を求めたところ、いつも『後で』と言われてそのままになっていたというのです」(山田町役場の担当者)

 '11年、'12年の両年度で計12億円もの予算を任せるのに、あまりに杜撰ではないか。前出・田村議員が言う。

「要は国のバラまき事業なので、町の懐が痛むことはない。でも、国であろうが町であろうが、これは血税なんです」

 冒頭の町長のコメントにあるように、町は警察にこの問題を相談している。被災地では復興につけこむ有象無象の暗躍が伝えられるが、このNPOもその類である疑いが濃厚なのである。


復興支援の立て役者の一人として山田町内に飾られていた、直筆メッセージを持つ岡田代表の写真。皮肉である


「大雪りばぁねっと。」本部近くに置かれていた捜索用のボート。エンジンを特注し、1000万円を超えるという


問題のNPOが手がけた無料の浴場「御蔵の湯」。これは建設費が前年度予算をオーバーした「記念品」でもある


達筆な筆文字で書かれた「部隊長統率方針」の額縁。果たして、どんな道を切り開いたのだろう


1月7日に開かれた説明会見に約束していた岡田代表は欠席…。憮然とした表情で町役場を出る佐藤町長

フライデー2013年1月18日発売より